R15指定 長編SS

陸海空 -Caress of Venus-

第一章 第七話 -通算 第十三話-

第十三話 小文字版

birth! -I-



13-01

マイ 「くっ。このくらいでいい気になられたんじゃ、私の立場がないわ!
    私のマスクを用意しなさいっ!」
 ソデから現れたタイツ男がマイのマスクを手渡す。それを前後に割り、被る。
来栖「それで対等になったつもりか?」
マイ 「ふふ、そんなわけないでしょ。これでアンタなんて手も足も出なくなったのよっ」
 華姫は肩を竦める。
華姫「所詮その程度の女ね。いいわ、来栖。軽く捻ってあげなさい」

 来栖はマントの留め金に手を伸ばすとマントを投げ捨てる。
 マントの下にはやはり純白のレオタード状のボディスーツ。華姫のものよりフレアが大きくオーガンジーのような布がふんだんに使われている。
 そして、マスクを前後に割り脱ぎ捨てると、そこには切れ長の澄んだ目を持つ整った顔が現れた。
来栖「これではハンデにもならないが、君の力が及ばなかったという事で諦めてくれ」

  『うおおおぉおぉぉぉおおぉっっ!』
 それまで戸惑っていた観客から盛大な歓声が上がる。
 黒服達の動きにも変化が現れた。数人の黒服が沢山の段ボール箱を抱え、テーブルまで運び込み始めたのである。
 そこには来栖と華姫の様々なグッズが並び始めた。
 先を争ってそれらを買い集める群集。

 あははは、と笑う華姫。
華姫「ギャラリーまで奪われたらマイには何も残らないわね」
 華姫の瞳に小さな男の子に姿が映り込む。最前列まで見に来ていた子供のようだ。
 舞台を降り、しゃがむと話しかける。
華姫「坊や、手伝ってくれる?」
 手を差し伸べるが子供は怯えて後退りする。
 あぁ、ごめんね〜。と言うと、華姫もマスクを外す。マスクの下には優しい表情をした綺麗な女性が存在していた。



13-02

 その表情を見て子供は恐る恐る手を差し出す。
 そのまま男の子を抱きかかえると、華姫は舞台に飛び移る。
華姫「さぁ、正義の味方さん。この小さな坊やを助けたかったら来栖を倒してみなさい」
 華姫を見て呆然としていた観客の熱気が一気に膨れ上がる。
 テーブルの前に待機している黒服が怯えるほどの購買欲だ。

来栖「では、私は悪の味方としてマイを倒せばいいのだな?」
マイ 「ふ、ふざけるのもいい加減にして貰うわ! マスクなしで私に勝てると思ってる
    なんて馬鹿にしてるの!?」
来栖「事実だから仕方があるまい。理解出来ないなら掛かってくるといい、君のような
    者でも実際に体験してみれば理解できるだろう」
華姫「今ならルール違反を犯した一柱を征伐する、という大義名分もあるわよ?」
 ね〜、と胸に抱いた男の子に微笑みかける。

マイ 「医療班、倒れている者を下げなさい!」
 マイの号令で、ソデから現れた胸に赤十字のマークを付けた白タイツの男達が、気絶している男達を運んでいく。
マイ 「じゃぁ本気を出してあげるわ。せいぜい後悔しないことね」
 マイは突風のような速度で来栖に飛び掛る。素早い連携で攻撃を加えるが、来栖は左手のみでその攻撃を凌いでいく。
来栖「ほう、思ったよりやるな。だが、私は右手をまだ使っていないぞ」

マイ 「くっ、なぜ来栖如きにこの私が……」
 全ての打撃を凌がれ、マイは仕方なく間合いを取り直す。
華姫「マイが弱いからに決まってるじゃない」
 来栖は儀礼杖を床に置くと、マイに向き直る。
来栖「さぁ、遊びは終わりにしよう。本気でかかってくるといい」
 割れるような歓声が沸きあがり、来栖コールが屋上に響き渡る。
来栖「しまった、私は悪の味方だったな。目立ち過ぎては正義の味方に悪い」
華姫「来栖。それを言うなら悪の手先よ」



13-03

マイ 「何馬鹿なこと言ってるのよ!」
来栖「ふむ、そうなのか…… まぁ待て、コレは重要な事柄だぞ。まず、悪の手先と
    いう事は悪の組織があり、その尖兵として悪事を働いている事になる。
    そして正義の味方という事は正義という存在があり、その味方と言うだけで正義
    そのものではないのだ」
マイ 「……だから何なのよ」
来栖「つまり、絶対的な正義ではない君は絶対的な悪の元で働く私には勝てない。
    絶対的な力とそれ以外の力の歴然たる差だ」

  『おおぉぉぉぉーーーー』
 何の確証もない理論。言ってみれば詭弁の類だったが、自信満々に言い放つ来栖の話術に飲み込まれる観衆。
 そして、その煽りを受けてマイは怯んでしまう。
華姫「……普通に考えれば適当なこと言ってるだけって分かるでしょうに」
マイ 「例えそうだったとしても…… 最後に正義は勝つのよっ!」
 いつの間にかマイは正義の味方になり切っていた。

 全ての力を出し切り来栖に打撃を加えるマイ。風圧で来栖の髪や装飾が揺れるが、来栖はその場に以前と同じように立ったまま微動だにしない。
マイ 「何で当たらないのよっ!」
来栖「君の攻撃は無駄が多すぎる。せめて一秒間に三打多く打ち込めれば当たる
    のだがな」
 そう言って一歩踏み込む来栖。マイは盛大に吹き飛ばされ、舞台の支柱に叩き付けられる。
 そのまま床に崩れ落ち、むせ込む。
華姫「まさか一撃で終わりなの? 大した事ないわね、バク転のセーギって」
 目の前で物凄い光景を見せられ、ぽかーんと口を開いている子供を抱き直すと、一人ずつ指差し口を開く。
華姫「三人の中で誰が一番好き?」
 その小さな男の子は三人を見比べ少し考えると華姫を指差す。
華姫「あら、嬉しいわね〜。じゃぁお礼しなきゃ」
 そう言うと舞台を飛び降りて黒服に近づいていった。



13-04

 貰うわよ、と黒服に言うと、自分が被っていたマスクと同じ図柄のお面を手に取り子供に手渡す。
華姫「来栖、それくらいじゃ気が済まないとは思うけど私に代わってよ。この子の期待
    を裏切っちゃ悪いでしょ」
来栖「そうだな。今日の賓客の意思は裏切れないか」
 来栖は華姫から子供を預かると、手にしたお面を頭に付けてあげる。
来栖「これで、あのお姉ちゃんと同じになったぞ」
 涼しげに微笑む来栖の笑顔を見てあどけなく笑う。

マイ 「今更出てきて、弱った者の相手しか出来ないわけ?」
華姫「私は来栖ほどのスピードが出せないから、更なるハンデをあげるつもりで出て
    きてあげたのよ。
    感謝なさい、バク転のセーギの味方さん」
マイ 「ふっざけるなぁぁぁーーーっ!」
 どこにそれだけの力が残っていたのかと思える速度で飛び掛る。
 それに合わせるように華姫は拳を打ち上げる。パキーーン、という硬質な音を立ててマスクと腕のプロテクターを破壊され、マイは吹き飛ぶ。
 舞台に叩き付けられた瞬間、床で小さな爆発が起こり、七色の煙が立ち昇る。
  『おおぉぉおぉぉーーーっ!』
 拍手とともに巻き起こる華姫コール。来栖に抱き上げられた子供もぱちぱちと拍手。
来栖「さて、少年。お姉ちゃん達と記念写真を撮ろうか」

 ポラロイド写真を手にして手を振る子供に軽く手を振る二人。
華姫「悪の手先が正義の味方倒しちゃったけど、どうしようか?」



13-05

 喫茶店の地下で見つめ合う二人。理由は勿論何からツッコムべきか分からなかったから。
公人「え〜と、ヒーロー?」
益田「正義の味方とでも言えばいいかな?」
公人「まぁ普通は正義の味方だとは思うけど、何で俺が?」
益田「公人君は力が欲しくないかい? 例えば、あの二人を守るための力とか」
 確かに自分に出来る事が何かないかとは考えたが、ヒーローってのは突拍子もなさすぎる。
公人「だからってヒーローと言われても、ピンと来ないんですけど……」
 その言葉を聞いてマスターは機械に向き直り、ディスプレイに映像を流し始める。
 そこには昨日の駅前での騒動が映し出された。
公人「これは昨日の……」

益田「今、日本の経済はある秘密結社に狙われている。現在はこの周辺地帯に限定
    されているが、着々とその手を伸ばし続けているのだ。
    君が昨日出会ったこの少女は、その尖兵に間違いないだろう。
    そこで、君には強化スーツを着込んで悪の野望を打ち砕いて貰いたい!」
 何か特撮番組でも見ている気分になる台詞。
公人「まぁ、一向にピンと来ないんですけど、何で俺が……」
益田「正義の味方に必要なのは愛だ! 人類愛とか郷土愛とか言ったところで、規模
    が大きすぎて実感が湧かないだろう。
    だが、君には護りたい人がいる筈だ。
    彼女達のために立ち上がり、悪の秘密結社を倒すのだ!」
公人「だから何で俺なのか……」

益田「…………バイト代は自給3000円ではどうだね?」
公人「うっ……」
 とても魅力的な条件が出てきて、ヒーローという存在に実感が湧き出す。
益田「勿論、それは喫茶店でのバイトに関してだ。正義の味方として活動、悪の手先
    を倒す度に能力給が追加される。しかも、医療関係も安心して任せてくれて構
    わない」
公人「ところで、マスターは一体何者なんですか?」
益田「喫茶店のマスターとは仮の姿……
    その正体は有限秘密結社の司令官、益田だ!」
 普段の行動を見ているだけに、演技してるようにしか見えない。
公人「何で喫茶店なんです?」
益田「喫茶店。それが正義の巣窟の、古くから継承される真の姿だからだよ」
公人「巣窟って何となく嫌な響きですね」
益田「喫茶店に屯する正義の味方。黄色い奴はカレー好き。赤い奴は熱血。
    青い奴は……」
 長くなりそうだな、と感じていた。



13-06

益田「では、正義の味方になってくれるね?」
公人「危険な事もしますよね?」
益田「安心したまえ、先程も言ったとおり医療関係はこちらで用意するし。危険を少
    なくするためのルールが存在している」
公人「ルール?」
 遠くを見るような目をして虚空を見つめるマスター。
益田「……以前は確かにルールなんてものは存在しなかった。その為に我々も敵方も
    大量の犠牲者を出したよ。だが、そんな事が許される時代は終わった。
    今では警察機関や法関係で、以前のように無秩序に戦う事が出来ない世の中
    になった。そんな折、決定的な事件が双方に訪れたのだよ」

 冷静さを取り戻すかのように椅子に座るマスター。俺も座るように指示される。
公人「それで何が起こったんですか?」
益田「兵力バランスが崩れた。というか、バランス自体が存在しなくなった。
    双方とも壊滅寸前までお互いを潰し合ったのだよ。
    その時、運命のいたずらとでも言うのかな、首脳者会談を開くチャンスが出来て
    ね。その話し合いで不可侵の協定。ルールが結ばれた」
公人「その話、長くなります?」
益田「……ルールについてはこれを読んでくれ」

 渡されたのは一枚の紙。
 そこには、一般市民を巻き込まない。破壊力を下げ決定的な打撃を与えない。など数箇条に及ぶルールが記載されていた。

 その時、昨日のクーの姿を思い出してしまった。カップを壊してしまい悲しむクー。
公人「正義の味方には興味はないんですが、悲しむ顔は見たくないんですよね……
    それに借りた金は返さないと」
益田「そうか、やってくれるか! では、この外出許可証に……」
公人「やっぱり考え直していいですか?」
 外人部隊には送られたくない俺がいた。




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2006-02-09 作成 - 2006/10/12 更新
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