R15指定 長編SS
第一章 第一話 -通算 第七話-
第七話 大文字版
flower
07-01
腕に当たる柔らかな感触。
どこかしら懐かしさを感じさせる優しい芳香に気付き、意識が覚醒し始める。
遮光性の低いカーテンのせいか少し眩しい。
空 「目が覚めましたか?」
その声を聞き、『あぁ昨日はクーの部屋に泊まったんだっけ……』と思い出す。
唇に柔らかい感触を感じ、意識が急激に覚醒を始める。
公人「朝からそういうのやめようよ……」
空 「人を目覚めさせるのに使われる手法には、キスのほかに水滴を──」
公人「あ〜、今言われても理解できないと思う」
空 「では、改めて。おはようございます、公人さん」
公人「おはよう……」
今一体何時なのか調べようとしたが、時計がどこにあるのか分からないので聞いてみる。
公人「今何時かな?」
空 「7時を過ぎた辺りです。それはそうと、腕は痛くありませんか?」
いくらか慣れたとはいえ腕を抱き締めるのは……
公人「……なぜパジャマの前をはだけてるのですか?」
空 「腕枕して頂いたのは嬉しかったのですが、起きた時には冷たく冷え切っており
血行も悪そうだったので、暖めていました。そちらの腕は平気ですか?」
そういえば両腕とも特に痛いとかそういった事はない。
公人「大丈夫みたい」
空 「目が覚めてから、夏海と一緒に暖めていて良かったです」
公人「もう大丈夫だから腕離してもらえないかなぁ」
空 「もう少しだけ、こうしていてはいけませんか?」
こうやって流されるがいけないとは分かってはいても、クーの顔を見ると断れそうにない。
公人「少しだけならね。そういえば夏海は?」
空 「朝食の準備で離れています。ですが昨日の残りを朝昼に分けて食べようという
事で、それほど時間はかからないとは思いますが」
公人「あ〜。昨日歯を磨かずに寝たから、ちょっと洗面所行ってくる」
空 「では、その間に着替えを用意しておきます」
そうだ、タオルケットのままだった……
07-02
階段を下りると、パジャマの上にカーディガンを羽織った夏海が廊下に出てきた。
夏海「おはよう公人。腕は大丈夫?」
公人「おかげさまで問題ないよ」
夏海は軽く腕に目を落とし擦ると、不意をついてそのまま軽くキスしてくる。
公人「……朝からやめろって。顔くらい洗わせてくれ」
夏海「どうせクーにはされてるんでしょ?」
公人「だからって問題点はそこじゃないんだが」
夏海「はいはい。クーに朝食が出来たって言ってくるから、準備が出来たらダイニング
に来なさいよ」
腕を振って答えると洗面所に向かう。
顔を洗い、歯を磨いているとリンが現れた。
理奈「あ〜、おはよぅ…… 朝からなんて格好してるんだか」
朝からって言われても、夜でもこんな格好したくないぞ。
公人「ぉ、おはよう。これには色々と…… っていいや、俺は何もしてないし」
歯磨き中で話しづらいので言わせておく事に大決定。
理奈「ふ〜ん、奥手ねぇ。まぁいいわ、張り切りすぎて身体壊さない程度に抑えなさい」
噴出しそうになるのを必死で我慢する。もうちょっとフィルターかけやがれ。
口をすすぎ早々に退場する。
部屋に戻る頃にはクーは着替えを済ませ、ベッドメイキングをしていた。
空 「着替えを用意しておきました。お手伝いしても──」
公人「一人で着替えるから食事に行ってくれ」
空 「はい、ではお待ちしております」
素直に部屋を出て行くクー。こういうの以前に何かあったような……
手早く着替え部屋を出るとクーが待っていた。そのまま部屋に入りタオルケットを広げると掛け布団の下に敷く。
公人「何をしてるのかな?」
空 「これで公人さんの香りに包まれながら寝る事が出来ます」
公人「そういう事はやめろ……」
そしてベッドメイクを終えたクーに手を引かれながらダイニングへ向かう。
今にもスキップしだしそうな雰囲気のクーを見て苦笑いを浮かべるしかなかった。
07-03
ダイニングテーブルには昨日の料理が大量に並べられていた。
そしてハイネックのニットにミニスカート、オーバーニーソックスの夏海。
コイツ侮れねぇ……
夏海「ふぅ〜ん、公人はこういうのが好きなんだ〜」
ニンマリと笑い、これ見よがしに脚を強調させる。
うぅ、絶対領域がぁ……
空 「やはり夏海はこういう時、頼りになりますね。また今度服を見立てて下さい」
素直に感心してるクー。
夏海「公人ってかなり単純だから大体見当付くし。暇な時にでも見に行きましょ」
公人「頼むからあまり刺激しないでくれ……」
夏海「それなら心配ないわよ。クーに出し抜かれない程度にするし」
しれっと手抜きする事を明言する。
空 「公人さん安心して下さい。こう見えても物覚えはいい方ですから」
どこからツッコミ入れるべきか考えてみた。
公人「これは多すぎだろ……」
夏海「どのくらい食べるか分からないから、一応ね」
公人「それと今日は自分で食べるから」
しっかりと釘を刺すと同時に不満の声を上げる二人。だが朝からまた面倒事を背負い込む気にはならないので、聞こえない振りで押し通す。
理奈「朝から無駄に元気ねぇ。あまり押せ押せで行くと公人君に嫌われるわよ」
身支度を終え空いている席に座るリン。面白いからいいけどね、と言って食べ始める。
空 「リン。空いている部屋に公人さんが入居する事になりました」
理奈「構わないわよ、どうせそういう事になるだろうと思ってたし」
全部お見通しかよ。
夏海「まぁリンが断ろうと公人には絶対に来て貰うけどね」
理奈「まぁツンならそう言うだろうと思ったし、無意味な事はしないわ」
ピクっと硬直する夏海。ニヤリと笑うリン。
またなのか……
空 「二人は放っておいて構いません。
あれが二人のコミュニケーションの取り方ですから」
黙々と食事を進めるクー。
公人「まぁ俺としては矛先がこっちに来なければいいんだけどね……」
07-04
食事も終わりリビングのソファで淹れたての紅茶を飲む。
う〜ん、一人暮らしでは味わえなかった優雅な生活だなぁ。
空 「公人さんは今日の2コマ目の講義に出るのですか?」
何の講義を取ってるかまで調べ上げてるのか。
公人「一応出ておこうとは思ってるけど」
夏海「じゃぁ一緒に行きましょ。両手に華を味あわせてあげるわよ」
公人「そういうのはやめろ」
夏海は意地悪く笑う。夏海ならホントにやりそうだしなぁ。
空 「でも私は我慢できそうにありません」
クーはそう言うと腕に抱きつき頬をすり寄せる。
理奈「夏海もさせて貰えば〜」
ふん、と横を向きつつも腕を絡めてくる夏海。人が悪いよリン……
理奈「じゃぁ、そろそろ私は出るから。それと夏海、ツンって呼ばれたい?」
夏海「そんな訳ないでしょ」
理奈「なら今まで通り夏海と呼んであげるわ。目的は達成したし」
何の事か考え、その意味に気付いたらしい夏海。
夏海「リン…… ありがとう……」
理奈「この貸しは高く付きそうね。どんなお礼して貰うか考えておくから期待して
なさい。クーも頑張りなさいよ」
公人君またね〜、と言いつつ去って行く。
ここで一番厄介なのはリンだと再確認した……
出かける時間までゆったりと雑談して過ごし、充分なゆとりを持って出かける。
まぁ昨日までは深夜まで起きていて、寝ても遅刻ぎりぎりになって慌てて起きるような生活だったというのもあるが、見慣れた景色も変わって見えるようだ。
空 「どうかしましたか?」
何気なく風景を見ながら歩いていたので、何かあったのかと心配させたのかも知れない。
公人「あぁ、今までは慌しく生活してたのかも知れないと思ってね」
夏海「これからは長閑ながらも刺激的な生活を送らせてあげるわよ」
ふふふ、と妖しげに笑う夏海。誰かコイツをどうにかしてくれ……
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